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酒蔵だより

SAKAGURA

2020.6.22.

「一人前の職人であり、一流の醸造家であれ」。福光屋の若手蔵人が志すもの。

福光屋の酒造りを担う壽蔵の蔵人には、さまざまなことが求められます。老舗酒蔵の蔵人として相応しい立ち居振る舞いができること、極寒の時期の昼夜にわたる労働に耐え得る気力と体力の持ち主であること。そして最も大切なことは、“職人でありながら、醸造の探求者”であるための気概を持ち続けているということ。黙々と手足を動かして任務を忠実にこなす職人的な要素に加え、醗酵の奥深さを探求し、科学的根拠に基づいた改良を重ねていくための知識も必要だということです。

職人仕事や親方制度の多くがそうであったように、「仕事は見て覚えろ」、「習うより慣れろ、理屈はいらぬ」の慣習は、壽蔵にも昭和の終わり頃まで長らく存在していました。それが大きく転換したのは、季節雇用する外部の蔵人らの減少による後継者不足から、蔵人を自社で一から育成する「社員蔵人制度」の導入に踏み切ったことでした。醸造学や農学系の大学出身者を新卒採用することで、従来の酒造りの現場、仕事のスタンスは大きく変わりました。
「酒造りの理は醸造学、すなわち応用科学です。酒造りでみられるさまざまな現象は理論的に解析でき、多くは数値で根拠を示せるものです。思いつきや偶然だけでは、微生物によって生み出される多様な味わいの商品を造ることも、翌年も同じ商品にするために再現することもできません。酒造りで直面するあらゆることに、蔵人の一人ひとりが醸造学の知識をベースに考察し、解決策を見出し、新しい技を生み出していけるような蔵人集団でありたいと考えています」と杜氏の板谷和彦。

現在、杜氏をはじめ蔵の三役(頭、代司、元屋)を含むベテランの7名は、すべて酒造技能士1級の保持者。それに続く若手たちは、一人前の蔵人になるための勉強に日々励んでいます。とくに酒造閑期には学習時間を確保しやすいことから、醸造学の基礎読本を熟読し、先輩蔵人が行う講義やトレーニングを受け、唎き酒能力を高めるための試飲と評価を繰り返します。
「資格取得はあくまでプロとしてスタートラインに立つための切符のようなものです。ゴールのない酒造りを一生の仕事にするのなら、伝統の技をトレースするだけでは行き詰まります。座学によって知り得る知識は、時代やお客さまが求める新しい味わいを生み出すときの支えとなり、日々の仕事に工夫を見出して小さな改革を重ねていくための後ろ盾や喜びになります。そして、それらが壽蔵全体のボトムアップにつながるのです」。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感、そして勘を研ぎ澄ませて体得する酒造りの技術。書物から学び、数式や化学式から習得する知識。この2つが蔵人の前輪、後輪となって仕事をすすめ、伝統を進化させています。